2017年5月20日土曜日

「原子爆弾後障害症治療指針」の重要性




厚生省(当時)は、原爆医療法施行後1年余を経過した 昭和33年8月13日付で、各都道府県知事・広島・長崎市長あて厚生省公衆衛生局長通知
「原子爆弾後遺障害治療指針について」
及び
「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」
 を通達した。

注目すべきは、これら厚生労働省による通知に、「慢性原爆症」と密接に関係する記載が見られることである。
これらは被爆後の日米合同調査団に参加した医療関係者らが中心となる調査班の委員により起草され、後に原対協の地元医師らの意見も一部加わり増補改定(昭和30年)された。
実態を反映した臨床医学を基礎に置いて策定されたことに特に留意すべきである。

上記の厚労省衛生局長による治療指針通知は、原爆症調査研究協議会(原調協)が昭和29年2月に最初に定めた 「原子爆弾後障害症治療指針」 に基づくものであることがうかがわれ、このことは、
「被爆者に関する限り、如何なる疾患又は症候についても一応被爆との関連を考え、その経過及び予後について特別な配慮を以て当る 」
とあり、両者に同趣旨の記載があることからも分かる。

 また、これらの通知はいずれも被爆距離を一応の目安をしながらも、2キロメー トルまでで切り捨てるようなことをせず、「実施要領」の通知には、

「被爆当時の状況、被爆後の行動等をできるだけ詳細に把握して、当時受けた放射能の多寡を推定するとともに、被爆後における急性症状の有無及び、その程度等から、間接的に当該疾病又は症状が原爆に基づくか否かを決定せざるを得ない場合が少なくない」

と記載され、厚生省通知と原調協の同治療指針で、ほぼ同様の記載がなされている。

 この通知にみられる原爆放射線の影響についての知見は、原爆医療法(案)策定の際、被爆者の定義等、内容を定めるうえで行政判断の土台となった。

また、被爆者疾病の放射線起因性を推認する場合でも、一連の原爆症認定訴訟判決においても同指針ならびに医療法制定時の厚生省の認識の重要性を司法が度々指摘している。
現代でも、正鵠を得た判断指針として評価できるものである。