2016年8月20日土曜日

新基準案、認定距離修正の変遷(与党プロジェクトチーム)




琉球新報(2007年11月28日)

原爆症認定 患者の救済を急ぐべきだ

原爆症認定基準の見直しを検討する与党のプロジェクトチームが、爆心地から約4キロ以内で直接被爆したり、投下後約100時間以内に爆心地付近に入って、がんや白血病などになった被爆者を自動的に原爆症と認定する新たな基準を打ち出した。

現行制度下で原爆症と認定されているのは、被爆者健康手帳を持つ約25万人のうち1%未満の約2200人にすぎない。
新たな基準が適用されれば認定者は約2万人となり現在の約10倍に増える。条件から漏れた人については、認定の可否を個別に審査する方式にする考えだ。
被爆者の平均年齢は既に75歳に達している。高齢化が進む中で、もはや一刻の猶予も許されない。できるだけ早く認定基準の枠を広げ、救済を急ぐべきだ。
原爆症の認定申請を却下された被爆者が処分取り消しなどを求めた各地の集団訴訟は国側が6連敗中だ。判決は、国の審査基準を「一定の合理性はあるが、放射線による被ばくの影響を過小評価している」などと批判した。
被ばく放射線量の推定値に基づき、性別、年齢を加味した「原因確率」によって判断する現在の認定基準が妥当性を欠いているのは明らかだ。
厚生労働省は、専門家による「原爆症認定の在り方に関する検討会」を発足させたものの、「科学的な判断が必要」などとして、認定枠の拡大には慎重な姿勢を崩していない。
厚労省の対応を待っていては、大幅な枠の拡大は期待できそうにない。原爆症患者を救済するには与党が主導して政策的に決着を図るのが早道だ。
日本原水爆被害者団体協議会は現行基準を廃止し、がんなど9分類の疾病で治療が必要な患者を無条件で原爆症と認定する制度に改めるよう要望している。
原爆症認定集団訴訟の東京原告団30人のうち既に12人は亡くなったという。これ以上の遅延を許してはならない。
政府は、一連の裁判での国の敗訴を重く受け止め、被爆者の切実な声に真剣に耳を傾けるべきだ。




沖縄タイムス(2007年11月28日)

[原爆症認定基準]
見直しを歓迎したい
原爆症認定をめぐる訴訟で国側敗訴が続く中で、被爆者団体から「厳しすぎる」と批判されてきた原爆症認定基準の見直しがようやく実現しそうだ。
与党のプロジェクトチーム(PT)は、爆心地付近から約四キロ以内で直接被爆したり、投下後約百時間以内に爆心地に入ったりした被爆者で、がんや白血病など九項目の病気になった人を自動的に原爆症と認定する方向で提言をまとめる。
現在約二十五万人が被爆者健康手帳を持っており、このうち原爆症認定者はわずか約二千二百人。与党PT案によると、現在の約十倍に当たる約二万人が認定される見通しだ。
厚生労働省は二〇〇一年、爆心地からの距離に基づく被ばく放射線量と、年齢や性別、病名を組み合わせて病気が被爆に起因するかどうかを判断する「原因確率」を導入している。
現行の基準は爆発時の初期放射線の影響を重視しているため、放射性降下物や誘導放射線など残留放射線の影響を受けたとされる「遠距離被爆」「入市被爆」の認定は難しくなる。
与党PT案では基準が大幅に緩和され、条件に漏れた人も「二段階方式」で個別に認定の可否が審査される。
従来基準と比べて大きな前進と評価でき、見直しを歓迎したい。だが新基準による救済で万全といえるか、線引きには合理性があるかどうか、早急に問題点を詰めていく必要がある。
被爆者の平均年齢は七十五歳。救済へ向けた議論を急ぎ、政府も最終案の取りまとめに全力を傾けてほしい。
認定申請を却下された被爆者が国に認定を求める訴訟は十五地裁、六高裁で係争中だ。東京など六地裁で国側が六連敗し、安倍晋三前首相が基準見直しを検討する意向を表明。与党内で政治決着を目指す動きが加速した。
厚労省は「科学的根拠に基づいた認定基準と審査」を強調し、「判決は一般的な医学・放射線学と理解が異なっている」などとして控訴している。
各地裁の判決は、現行基準について「残留放射線の影響評価などで限界があり、科学的根拠を厳密に求めると、被爆者救済という被爆者援護法の目的に沿わない」「残留放射線による外部被ばくや内部被ばくを十分検討しておらず、限界や弱点がある」などとして、被爆者を救済する判断を示した。
科学的な根拠や厳密な因果関係の判断にかたくなにこだわるだけでは、この問題を打開することは難しい。
「厚労省は私たちが死ぬのを待っているのでしょうか」という高齢の被爆者の声を真摯に受け止め、被爆者救済の枠を可能な限り広げていくべきだ。


毎日新聞(2007年12月19日)

原爆症:与党PTの認定基準見直し案、評価と不安と

命あるうちに救済を--。原爆症認定基準で与党プロジェクトチーム(PT)が19日、特定の病気であれば原則無審査で原爆症と認める見直し案をまとめたことに、被爆者は「要求が受け入れられた」と評価した。しかし被爆者側の要望にはなかった距離や時間の条件も加えられており「認定の『線引き』は残り、集団訴訟の解決策にも触れていない」と問題を指摘する声も上がっている。
厚生労働省で会見した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)によると、与党案がまとまるまでには被爆者側との激しい攻防があったという。焦点は、無審査認定の条件になる爆心地からの距離。当初「4キロ以内」としていたPTは途中で「3キロ」と修正。被団協は最後まで「3キロは受け入れない」と抵抗し条件拡大をもぎ取った。
全国原告団長の山本英典さん(74)は「被爆者の苦労に思いを寄せてもらった」と評価する一方で「与党案で原告の大部分はカバーされるが、漏れる人もいる。どう説明すればいいのか」と苦渋の表情を浮かべる。東京訴訟原告の小西悟さん(78)は「歓迎すべき点はあるが、これでは安心できない」と語った。
被団協事務局長の田中煕巳さん(75)は「厚生労働省検討会と与党の両案を踏まえ、被爆者の全面救済に近い形の方針を政府に出してもらえるよう力を注ぎたい」と述べ、訴訟を含めた早期解決を強く求めた。【下原知広】